退職金の受け取り方は大きく分けて3つ
それぞれのメリット・デメリットを知ろう

退職後「どのような税金がいくらかかるのか」「受取方法は選択できるのか」このような疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。

そこで、今回のコラムでは退職金にかかる税金や受け取り方についてご紹介します。充実したセカンドライフのために、ぜひお役立てください♪

コラム監修 北國銀行 竹内 愛

退職金の税金って自分で納めるものなの?

退職金の税金は通常、会社が源泉徴収して納めてくれます。そのため自分で税務署に納める必要はありません。一方で退職の際には、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出する必要があります。

この申告書は、退職金の税金計算に必要な情報を提供する書類です。申告書は一般的に勤務先から渡されますが、国税庁のホームページでもダウンロードが可能です。

申告書を提出せずに退職金を受け取ると、退職所得控除が適用されないため一律20.42%の税率で源泉徴収されます。後ほど確定申告を行えば、過払い分を還付してもらえますが、予め申告書を出しておくほうがスムーズです。

自分で確定申告したほうが良いケース

「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出している場合でも、確定申告をしたほうが良いケースがあります。

  • 年の途中で退職したので年末調整を受けていない
  • 退職した年の所得が前年よりも少ない

上記のような場合は確定申告を行えば、過払い分の還付を受けられる可能性があります。自身の状況がわからない場合は、経理や人事のご担当者に聞いてみましょう。

住民税は自分であとから納める必要がある

住民税は前年の所得に対して課税されます。つまり、退職した年の1月1日から12月31日までの所得に基づいて、翌年に住民税を納めます。

在職中は毎月の給与から住民税が天引きされていましたが、退職後は自分で住民税を納めなければなりません。

退職した年は通常の所得に加え、退職金も課税の対象となるため、住民税の納税額が増加する可能性があります。

退職後の生活設計を立てる際には、翌年の住民税の支払いを考慮しておくようにすると安心です。

退職金にかかる税金の種類

退職金にかかる税金の種類は以下のとおりです。

  • 所得税(復興特別所得税含む)
  • 住民税

それぞれどのような税金なのか、計算時に必要な税額表や算出方法を解説します。

所得税

所得税とは、個人の所得にかかる税金のことです。1月~12月までの年間所得から所得控除を引いた金額に税率を掛けたものが税金となります。

所得税の計算方法は以下のとおりです。なお、退職金は退職所得控除額が受けられるため、退職金の全額に税金がかかるわけではありません。

  • 所得税=課税所得 × 税率(5〜45%)− 税額控除額

税率は、国税庁の令和5年分所得税の税額表をもとに計算します。

課税される所得金額

税率

控除額

1,000円~194万9,000円まで

5%

0円

195万円~329万9,000円まで

10%

9万7,500円

330万円~694万9,000円まで

20%

42万7,500円

695万円~899万9,000円まで

23%

63万6,000円

900万円~1,799万9,000円まで

33%

153万6,000円

1,800万円~3,999万9,000円まで

40%

279万6,000円

4,000万円 以上

45%

479万6,000円

出典:国税庁「所得税」

また、所得税には所得税額に対する付加税として復興特別所得税があります。

復興特別所得税は、東日本大震災の復興施策に充てられる税金で、所得税額に2.1%を乗じた額が追加で課税されます。(2013年~2037年まで)

住民税

住民税とは所得に応じた負担を求める「所得割」と所得にかかわらず定額の負担を求める「均等割」があります。

  • 所得割:前年の課税所得に対して10%(都道府県民税4%、市町村民税6%)
  • 均等割:定額で5,000円(市町村民税3,000円、都道府県民税1,000円、森林環境及び森林環境譲与税1,000円)

退職金の税金は受け取り方によって違う

退職金は税務上、退職所得として扱われます。退職所得とは、退職金から特定の控除額を差し引いたあとの課税対象となる金額のことです。

退職所得の課税方法には、「総合課税」と「分離課税」の2種類があり、退職金の受け取り方によって異なります。退職金の受け取り方は3パターンです。

課税方法によって、適用される控除の種類や税金額も異なります。ここでは受け取り方別にどのような課税方法でどのような控除が受けられるのか、詳しく見ていきましょう。

一時金で受け取る場合

分離課税とは、ほかの所得とは別に税金を計算する方法です。
退職時に一時金として退職金を受け取った場合、退職所得は分離課税となります。

一時金で受け取った退職金に対する税金の計算方法は以下のとおりです。

  • 課税退職所得金額=(退職一時金-退職所得控除額)×1/2

例えば、退職金が1,000万円で、退職所得控除額が500万円の場合、課税退職所得は以下のように計算されます。

  • 課税退職所得(250万円) = (1,000万円 − 500万円) ×1/2

この課税退職所得250万円が、所得税と住民税計算の基準となります。

退職所得控除額を計算する方法

退職所得控除額は、勤続年数によって異なります。退職所得控除額の計算式は、以下のとおりです。

勤続年数

退職所得控除額

20年以下

40万円×勤続年数

20年超

800万円+70万円×(勤続年数-20年)

※退職所得控除額が80万円未満の場合は、退職所得控除額は一律80万円となります。

勤続年数が25年と15年の場合の退職所得控除額を見てみましょう。

勤続年数

退職所得控除額の計算式

退職所得控除額

15年

40万円 × 15年

600万円

25年

800万円 + 70万円 × (25年 − 20年)

1,150万円

なお、年度の途中で退職した場合は、繰り上げて勤続年数をカウントします。例えば、勤続15年3か月の場合の勤続年数は16年として計算します。

メリット・デメリット

一時金で受け取れば退職所得控除額が大きくなるため、税制上は有利になるケースが多いのがメリットです。

つまり、同じ退職金額でも、一時金で受け取ったほうが、手取り額が多くなる可能性が高いということです。

一方で、一度に大きな金額を手にすることで、つい浪費してしまったり、適切な資金管理ができなかったりする恐れがあります。

退職後の生活資金を計画的に使うことが難しいと感じる場合は、一時金で受け取るよりも、年金で受け取るほうが良い場合もあるため、自身の経済状況やライフスタイルに合わせて検討しましょう。

年金で受け取る場合

退職金を年金で受け取る場合、退職所得ではなく雑所得として取り扱われます。年金受け取りの場合は、退職所得控除を利用できません。

年金として受け取る退職金は、他に受け取っている国民年金や厚生年金と合わせた公的年金等収入金額の合計額(収入金額)から公的年金等控除額を差し引いた残りの金額が、課税所得となります。

  • 公的年金等の雑所得 = 収入金額 - 公的年金等控除額

公的年金等控除額(年金以外の所得が年間1,000万円以下の場合)は、以下のとおりです。

年齢

年金収入

公的年金等控除額

65歳未満

60万円以下

0円

60万1円から129万9,999円まで

60万円

130万円から409万9,999円まで

年金収入 × 25% + 27万5,000円

410万円から769万9,999円まで

年金収入 × 15% + 68万5,000円

770万円から999万9,999円まで

年金収入 × 5% + 145万5,000円

1,000万円以上

195万5,000円

65歳以上

110万1円から329万9,999円まで

110万円

330万円から409万9,999円まで

年金収入 × 25% + 27万5,000円

410万円から769万9,999円まで

年金収入 × 15% + 68万5,000円

770万円から999万9,999円まで

年金収入 × 5% + 145万5,000円

1,000万円以上

195万5,000円

出典:国税庁「公的年金等の課税関係」

メリット・デメリット

年金での受け取りは、一時金よりも税金や社会保険料が多くなる傾向がある点はデメリットだと言えます。

一方で年金の場合、受け取っていない退職金は、勤務先が予定利率で運用してくれます。つまり、年金の総額受取が一時金で受け取るよりも増加する可能性がある点ではメリットだと言えるでしょう。

一時金と年金の両方で受け取る場合

退職金の受取方法は、一時金または年金のどちらか一方だけでなく併用できる場合があります。

この場合、一時金で受け取る部分は退職所得として扱われ、退職所得控除が適用されます。一方、年金で受け取る部分は雑所得として扱われ、公的年金等控除の対象となります。

メリット・デメリット

一時金と年金の両方で退職金を受け取ることのメリットは、一時金の受け取りだけでは控除しきれない額の退職金がある場合に、より大きな控除が受けられることです。

また、住宅ローンや車のローンなどの返済に必要な金額を一時金で受け取り、残りの部分を年金で受け取ることで、無駄遣いを防止できるというメリットもあります。

一方、デメリットとしては、一時金と年金の割合をどのように設定するかの判断が難しいことが挙げられます。

適切な比率を決めるためには、事前のシミュレーションが必須です。とはいえ、一時金と年金それぞれの税金計算が複雑なため、専門家である税理士等に相談することもおすすめです。

※この記事は2024年4月現在の情報を基に作成しています。今後変更されることもありますので、ご留意ください。